皮革ケアの基礎知識


革靴の手入れは「化粧」に例えられることが多い。
「洗顔」→「スキンケア」→「メイク」という流れは、確かに皮革製品の手入れと同じ。
皮革製品はもともと「肌」なので、その手入れ方法がスキンケアと似ているのは当然で、間違った手入れをすれば肌を傷めることにもなりかねない。

皮革製品の場合は、「汚れ落とし」→「栄養補給」→「ツヤ出し」というのが一般的なケアの流れになるが、最も重要なのはケアする製品の種類や特性を知っておくこと。
スムースレザーでも「アリニン染め」の製品は普通のクリーナーなどが使えず、シープスキンやゴートスキンなどのデリケートな革、爬虫類、エナメル、起毛素材など、それぞれ専用のケア用品が必要。
また、乾燥肌や脂性肌など同じ「肌」にも個性があるように、革にも個性があって、スポンジのようにオイルを吸収するものもあれば、そうでないものもあるので、ある程度は個性に合わせたケアも必要になったりする。

革の基本的なケア

革の手入れというとクリーナーやクリームの使用を思い浮かべるが、最も基本的なケアは「ブラッシング」と「乾拭き」。
化粧で例えるなら、化粧水や乳液に頼らなくてもいいくらい、潤いのある素肌を維持するためのケアといった感じ。

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もともと革には脂分や水分が含まれているので、革の素肌力をアップしてあげると、ワックスで光らさなくても自然なツヤが出てくるのだが、この革に含まれれている脂分の天敵がホコリ。 表面に付着したホコリは革の脂分を吸い取って乾燥させるだけでなく、毛穴に詰まると革が呼吸できなくなるので、ホコリを取ってあげることが革のケアでは非常に重要なポイントになる。

クリーナーやクリームの使用は、あくまで革の健康状態が低下した時の補助的なものでしかないので、当然ながら頻繁に行うものでもない。
毎日行っても良いのは、ブラッシングと乾拭きだけ。
ここを勘違いしてしまうと、過保護というよりデメリットが多くなるので要注意。

手入れ用のブラシで一般的な馬毛のブラシは、程よい硬さがあるのでホコリ取りからポリッシングまでこなせる。
豚毛は馬毛よりも少し硬めだが、毛足の長さが同じ程度なら使用感は大して変わらない。



手入れの頻度

手入れの頻度については諸説あり、ブラッシングと乾拭きは毎日行ってOKで、クリーナーやクリームを使用した手入れの頻度はケース・バイ・ケースなのだが、「過ぎたるは及ばざるが如し」といった感じ。
クリームやオイルは塗れば良いというものではない。

オールインワンのケア用品ラナパーの取説には、靴の場合「1週間から10日に1回の割合で使用してください。」と記載があるが、この頻度は微妙。
手入れで重要なのは◯日に1回というルーチン化ではなく「使用頻度」で、週に1回使用するかしないかの靴と、ほぼ毎日酷使されている靴とでは、当然ながら傷み方が違ってくるし、自ずと手入れの頻度も変わってくるは当たり前。

クリーナーやオイル入れは、革が乾燥し始めたり雨などでダメージを受けた際に行うもので、あくまで革のコンディションを整えるのが目的。
不必要にクリーナーやクリームを使用すると、却って革を傷めることになりかねない。

劣悪な条件下での使用や保管状態でない限り、手入れをしてから1週間に1~2度履いた靴が、その数日後にクリーナーやクリームが必要なほどコンディションが悪化することはない。

靴の湿気とシューキーパー

1日に足から出る汗の量は両足でコップ1杯分(およそ200ml)と言われており、ほぼ半日履きっぱなしの靴には、片足でコップ半分に近い水分を吸収していることになる。
ただ、水分の多くは水蒸気なので、短靴の場合は大部分が履き口から外に出ているのだが、1~2割程度は靴が吸収するようなので、だいたい大さじ2杯くらいの水を靴の中に入れている感じ。

「数足の靴をローテーションで履いたほうが長持ちする」というフレーズは靴屋の常套句だが、靴の湿気を飛ばして形を安定させるためにも非常に有効。
1日履いた靴は一晩ではなかなか乾燥しないので、続けて使用すると半乾きの状態で履くことになり、靴の中は常に湿った状態で雑菌の温床になる。

季節にも左右されるが1日履いたら2~3日は陰干ししないと乾燥しないので、少なくても普段履きの靴は3~4足ないとローテーションが難しくなる。また、靴箱の中は湿度が高く、靴の乾燥には適さないので、履いた靴を靴箱に入れるのもタブー。
そして靴を休ませる際には必ずシューキーパーを使用する。

個人的には1日履いた靴は1晩そのまま放置して、ある程度乾燥させてから翌朝にシューキーパーを入れて更に休ませている。

シューキーパーにはプラスチック製と木製のものがあるが、言うまでもなくオススメは木製。
木製の場合は単に型崩れを防ぐだけでなく、木が靴の中の湿気を吸収するので効果的。ただ、木製のシューキーパーは水分を含むためにカビが発生することがあるので、時々は陰干しが必要になる。

手入れをする前に

革製品は傷つきやすい。
もちろん無傷で使用することなど不可能で、傷の一つ一つが製品の味になるのだが、それでも綺麗に使いたいのが人情というもの。
しかし、気持ちとは裏腹に大抵の傷は自分の不注意で付けてしまう。中でも新品を手入れをしている際に傷を付けてしまうと、あまりの残念さにしばらく立ち直れなくなる。

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中央に痛々しく残っているのが、手入れの際に付けてしまった傷。
写真は事故から3年ほど経過しているので少しは馴染んでいるものの、正に爪痕がしっかりと刻まれている。

この時はかなり凹んだので、この後から鞄やレザージャケットの手入れの際にはゴム手袋を使用するようになった。
無論、本来はきっちりと爪を切って、ヤスリがけをしてから手入れをするのがベスト。

手入れの際に製品を傷つけてしまうのは、不注意だけではなく、力の入れ過ぎも大きな要因。
「力むのは下手な証拠」と言われるが、仕上げに磨き上げる時など、力が入ってしまったり、ブラシがけが雑になったりすると、思わぬ痛手を食らうので要注意。

革の種類

一般的な革は牛革だが、加工方法によって取り扱いは変わってくるし、牛以外にも羊や山羊、ヘビやらワニやら、様々な革が存在し、革の種類に応じたケアが必要。

スムースレザー

靴の手入れ方法やケア用品で最も多く登場するのがスムースレザーという単語。
革の表面(銀面)を活かして加工されたもので、様々な革製品に使用されており、最も代表的なのが牛革のスムースレザー。

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スムースレザーは革の種類というよりも、スエードやヌバックなどの起毛素材に対しての「起毛していないなめらかな革」という意味合いが強い。
そのため「スムースレザー=牛革」というわけではなく、シープスキン(羊)やゴートスキン(山羊)、カンガルーなどを使用したものもあるため、スムースレザーといっても素材に応じたケアが必要。

スエード

バックスキンとも呼ばれるように、皮の表面ではなく裏面(肉面)を使用したもので、ヤスリがけをして起毛させてあるのが最大の特徴。

牛革のほかに豚革、シープスキン、ゴートスキンなども使用されるが、スエードの場合は素材の種類ではなく、起毛素材用のケアが必要で、基本はスエード専用ブラシでのブラッシングになる。

ヌバック

スエードが裏革を使用するのに対し、表面(銀面)を起毛させたものがヌバック。

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毛足が長いスエードに比べヌバックは毛足が短く、なめらかな風合いが特徴。
ヌバックも起毛しているため、手入れ方法はスエードと同じ。

ガラス革

加工時にガラス板へ張り付けることに由来した名称で、銀面に傷がある皮などの表面をヤスリで削り、樹脂でコーティングしたもの。
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樹脂でコーティングされているためツヤがあり、通常の革と比較すると雨や汚れにも強いのが特徴。
反面、樹脂の経年劣化は避けられず、長期間の保管や使用状況によっては、表面がベタベタになったり、白く曇ったようになってしまう。

この革はエナメル同様、樹脂コーティングされているので、靴クリームが浸透しにくく、靴クリームでの補色は諦めたほうがいい。
手入れ方法はサフィールのレザーローションなど、オールマイティタイプのもので汚れ落としと栄養補給をし、補色は補修クリームや補修塗料を使用することになる。

オイルドレザー

防水効果を高めるためにオイルに浸した革で、マウンテンブーツやワークブーツなどでよく使用されている。

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しっかりとオイルが浸透しているオイルドレザーなら、簡単に革が乾燥してくることはないので、普段の手入れはブラッシングを行っていればOK。
オイル入れは一般的にミンクオイルが推奨されているが、それは登山靴で使用されているようなオイリーな革の場合であって、表面が比較的サラッとしているオイルドレザーにミンクオイルを使用するとベトつき感が半端ないので、デリケートクリームなどでオイル入れしたほうが良いかも。

ゴートスキン

独特のシボが特徴の山羊革。
革そのものが強く、皮の厚みが薄いため、しなやかで丈夫という優れもの。

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手入れは基本の乾拭きとブラッシングで、オイル入れはデリケートクリームを使用する。

クリーナーについて

皮革製品にも水溶性と油性の汚れがあり、手垢や汗などは水溶性、古い靴墨などは油性になる。
ドライクリーニングと同じで、油性に効果のあるクリーナーは水溶性の汚れが苦手で、その逆も同じ。これらはクリーナーの主成分によって分類されるので、的外れなクリーナーを使用しても効果はほとんどない。

クリーナーの主成分は大きく分けて「界面活性剤」と「有機溶剤」があり、界面活性剤は「石鹸」の主原料。有機溶剤はアルコールやシンナーなど有機化合物の総称で、一般的には可燃性で水に溶けにくいものを溶かすイメージがある。

界面活性剤は、水となじみ易い部分と、なじみにくい部分があり、水になじみにくい部分が汚れに吸着し、表面張力の低下によって水中に汚れが浮かび上がろうとする性質を利用して洗浄が行われる。
一般的に界面活性剤を主成分にしたクリーナーは、コロニルのレザーソープのようなムースタイプのものが多い。
これは皮革へのダメージを抑えるため、汚れを吸い取る泡の性質を利用して、少ない洗浄液で広い面積をカバーできるようになっている。

保革成分が入っておらず、クリーナーとして高評価のモウブレイ ステインリムーバーの成分は、「有機溶剤、界面活性剤、油脂類、水」で、「水」が主成分なので革に優しいとか、水の力で汚れを落とすとか、誤解を招く表現もあるが、汚れを落としているのは「有機溶剤」と「界面活性剤」で、水が汚れを落としているわけではない。

有機溶剤は物を溶かすための液体で、水に溶けないものを溶かす目的で使用される。
具体的には石油、灯油、ガソリン、シンナーやアルコール、トルエンなどの可燃性物質で、ドライクリーニングでは工業用ガソリンやパークロロエチレンが使用されている。

界面活性剤を主成分にしているクリーナーは、普通の石鹸と同様に水溶性・油性いずれの汚れにも対応できるのだが、洗濯しても汚れが完全に落ちないように、汚れに対して万能というわけではない。
その点、モウブレイのステインリムーバーは界面活性剤と有機溶剤が入っているので、界面活性剤のみのクリーナーと比べると洗浄力が高いのは当然。
ステインリムーバーがサフィールのレノマット リムーバーと同様、靴以外の革製品への使用を禁じているのも、有機溶剤が色ムラやシミの原因になるから。
洗浄力を強化すれば皮革そのものにダメージを与えてしまうだけでなく、使用するのが専門職ではなく無知な素人なので、問題が発生しないレベルまで洗浄効果が抑制されるのは仕方がない。
レノマット リムーバーなどクリーニング効果の強い製品は強力すぎて、加工がしっかりしていない製品に使用すると、くすみや色落ちの原因にもなる諸刃の剣だったりする。

クリーナーを使用して、魔法のように汚れだけが消えてなくなるのはテレビショッピングの中だけ。革を傷めずに汚れを落とすのは限界があり、落としたい汚れに限って期待値の3割程度だったりするので、やはり普段から汚れないよう注意するのが賢明かも。

革と水

「革は水に弱い」という定説は正しくもあり、誤りだったりもする。
もともと革は鞣す最初の工程で「水漬け」されており、皮膚と同様で適度な水分は必要。
ただ、部分的に水分を与えてしまうと、革の内部に浸透している油分や染料が水分によって移動するため、油分や染料が薄い箇所と濃い箇所ができてシミになる。

また、革は水に濡れると水分により膨張し、乾燥すると伸縮するが、革の繊維は伸縮率が一定ではないため、型崩れが起こると同時に潤滑性も失われて硬化する。

革が水に弱いと言われる所以の大きくはシミと硬化の2点で、その他の原因としては水濡れすることでカビが発生しやすくこと。
濡れた状態のまま保管してしまうと、シミはできるは型くずれして硬化するは、挙句にカビまで生えるという悲惨な状態に陥りかねない。

ただ、逆にいうと、油分や染料の移動によるシミ、伸縮による型崩れと硬化、カビの発生に気をつければ、水を使用しても全く問題ないということ。
多少のリスクはあるが、必要以上に水を避ける必要はなかったりする。





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