Android向け日本語キーボード

Google は[Google日本語入力]という、オフライン辞書を用いる日本語専用の IME(Input Method Editor)を開発してきました。現在もパソコン向けのアプリは更新が続いていますが、Android版は 2021年頃を最後に更新が停止し、多言語 IMEである[Gboard]へ事実上統合されました。

[Gboard]は[Google Keyboard]を基盤とする多言語キーボードで、[Google日本語入力]とは異なり、クラウド辞書を利用します。Googleは「キーストローク自体は送信していない」と説明していますが、利用状況などのメタデータ収集が指摘されており、個人情報保護の観点では懸念が残ります。

日本語 IMEの環境

日本語は、ひらがな・カタカナ・漢字が混在する複雑な言語で、表記ゆれ(同じ言葉の複数の表記方法)も多いため、変換辞書の制作には多大な労力が必要です。さらに、他言語と比べて利用者人口が相対的に少ないことから、日本語 IMEの開発環境は限定的になっています。

現在も開発が継続している日本語 IMEの系統としては、[Google日本語入力]のオープンソース版である[Mozc]系と、オムロンソフトウェアが開発した[iWnn]を元にしたオープンソース実装[OpenWnn]系があります。Mozcは現在も公式に活発な更新が行われていますが、OpenWnnは 2020年以降ほとんど開発が停滞している状況です。

LineageOS などで採用されている[HeliBoard]は多言語キーボードアプリですが、日本語向けの変換エンジンを持っていないため、日本語キーボードとしては利用できません。
変換精度が高い IMEとして[ATOK]がありますが、サブスクリプション方式のため、パソコン版とあわせて運用したいユーザーに向いた選択肢になっています。
また、オープンソースの Mozcを使用したキーボードアプリは、F-Droidで提供されていますが、2019年で更新が止まっているため、最新の環境ではインストールできなくなっています。

IME(Input Method Editor)は、日本語入力に必要となる文字変換エンジンを指し、ローマ字やかなの入力を漢字や適切な語句へ変換する役割を持っています。
これに対してキーボードアプリは、画面上のキー配置やフリック入力、テーマなどの操作部分を提供するもので、実際の変換処理は内部で IMEが行っています。
Androidでは、変換エンジンとしての IMEと、入力操作を受け付けるキーボード部分が一体化したひとつのアプリとして実装されているため、利用者にとってはキーボードアプリが IMEとして機能します。


IMEのセキュリティリスク

中国企業 Baidu(百度)の子会社である Baidu Japanが提供している無料の日本語キーボードアプリ[Simeji]は、初期に Wnn系技術をベースとして登場した入力システムです。2013 年には「クラウド変換機能をオフにしていても、変換確定文字列がサーバーに送信されていた可能性」があるとして、内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)が注意喚起を行いました。さらに 2015 年には、Baiduの Android向けソフトウェア開発キット(SDK)に「バックドア的な機能」が含まれていたという報告があり、当時 Simejiがその SDKを利用していた可能性も指摘されています。

[Gboard]や[Simeji]のようにクラウド変換を行う IMEは、設計上、キーストロークや入力内容をサーバーへ送信する仕組みを組み込むことが技術的に可能です。しかしクローズドソースのため、送信している内容を外部から検証できず、最終的には「企業側の説明を信じる」しかありません。
さらに、広告を表示するタイプの無料キーボードアプリでは、広告ネットワークとのデータ共有が利用規約に含まれている場合が多く、サードパーティへの情報提供が前提となるため、セキュリティリスクはより高まります。

キーボードアプリは性質上、入力内容・通信ログ・辞書同期データを取得可能です。これらには、入力中のパスワードや個人情報が含まれる可能性もあり、構造的に高い権限を持っています。

用語解説

クラウド変換とは、IMEが端末内の辞書だけでなく、インターネット上のサーバーにある辞書や言語モデルを使って変換候補を生成する仕組みです。最新の語彙を反映しやすい利点がありますが、入力内容や利用状況の一部がサーバーに送信されるため、プライバシー上のリスクが生じやすいという特徴があります。

主要な日本語IME

無料利用できる主な日本語キーボードアプリです。すべて Playストアからインストールできます。

Gboard

Simeji

Microsoft SwiftKey AI

スミレ

日本語 IME 136 Plus

クラウド辞書

あり

あり

あり

なし

なし

データ送信

あり

あり

あり

なし

なし

ソース公開

クローズド

クローズド

クローズド

オープン

非公開

広告

なし

あり

あり

なし

なし

ベースコード

Google日本語入力

初期は Wnn系
現在は独自エンジン

独自エンジン

Mozc

OpenWnn

Mozcの代替「スミレ」

[Google日本語入力]は Googleの日本チームが2010年に開発した画期的な IMEです。インターネット上から大規模に収集した語彙をローカル辞書として保持し、端末内で変換処理を行う設計のため、クラウド変換のようなデータ送信を必要とせず、高精度かつ安全性の高い変換を実現しています。

Google日本語入力は、[Mozc]としてオープンソース化されており、現在も Googleを中心に外部コントリビューターが参加する形で開発が継続されています。
ただし、一般ユーザーがインストール可能な[APK]としては、F-Droidに公開されている[Mozc for Android]のみで、その Mozcも更新されていないため、現在はインストールできないデバイスが増加しています。

この Mozcをベースにした日本語IMEが「スミレ」です。

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[スミレ]は、Naka Kazuma氏の個人プロジェクトで、GitHubでソース が公開されています。

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Exodus Privacyでの分析でも、トラッカーは検出されず、権限も必要最小限になっており、安全性が証明されています。

IMEの切り替え手順

キーボードアプリは、インストール後に開くと、キーボードの切り替え画面が表示されます。
切替画面を消した場合は、[設定]の[システム]から[言語と入力]を開き、[画面キーボード]を選択すると切替画面を表示できます。

Japanese ime 003

インストールしたキーボードアプリを開きます。多くの場合はウエルカム画面が表示されるので、設定に進みます。

Japanese ime 004

画面キーボードの設定画面が開くので、使用するキーボードを有効にします。

Japanese ime 005

警告が表示されるので、内容を確認して「OK」をタップします。

備考

選択肢が限られている日本語IMEの現状で、[スミレ]は DeGoogle OS環境への導入のほか、プライバシー保護を重視するユーザーにとっては有力な選択肢です。
操作も Mozcや Gboardを使用していたユーザーであれば違和感もなく、キーボードも細かく設定でき、QWERTYキーボードでも日本語入力がしやすい環境を整えられます。

更新情報

  • 2025-11-19:初版公開

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