第2章 Googleの広告最適化とUX崩壊:収益優先の構造

Googleの親会社である Alphabetは、サンダー・ピチャイ氏がCEOに就任して以降、広告事業とクラウド事業を中心に右肩上がりの成長を続けていました。
しかし、2020年に新型コロナウイルスの流行が始まると、世界的な景気後退や米国のインフレ率上昇が進行し、広告市場全体が減速した結果、Alphabetの収益成長も鈍化して、株価は2021年 10月頃をピークに下落へ転じました。

Googleは収益構造の改善を目的に、2023年以降、広告収入を拡大するための施策として、検索エンジンの検索結果と、検索結果を表示するページ(SERP)に大幅な変更を実施していきます。

見つからない検索

Googleが検索エンジンの標準として普及したのは、Web全体に張り巡らされたリンク構造から相対的な信頼性を導き出す「PageRank」という仕組みを基盤とし、精度の高い検索結果を表示できたからです。
Googleの検索エンジンが一般化すると、PageRankの仕組みを逆手に取って、大量のバックリンクを購入し、ウェブサイトを上位に表示させる SEO(検索エンジン最適化)の手法が急速に拡大しました。

Googleは、2012年に検索アルゴリズムを大幅に更新する「パンダ・アップデート」と「ペンギン・アップデート」を導入し、検索結果の健全化を図ります。
パンダ・アップデートでは、低品質なコンテンツや重複コンテンツ、スクレイピング(他サイトからのコンテンツ複製)などの問題を抱えるウェブサイトが順位を下げ、ペンギン・アップデートではリンクスキーム(不自然なリンク構築)といった不正なSEO手法に対してペナルティを科しました。

当時の大規模アップデートは年に 1回程度の頻度で行われ、ロールアウト後に一時的な順位低下が見られても、ウェブサイトに問題がなければ数ヶ月以内に順位は回復する傾向にありました。また、順位が下がった場合でも、ページを改善すれば正しく再評価される構造が維持されていました。
しかし、スパム対策が進むにつれて検索アルゴリズムは複雑化し、2016年 3月に PageRankの公開スコアが廃止されます。この頃から、Googleの検索エンジンは徐々にブラックボックス化していきました。

そして 2023年、それまで年に 1〜2回だった大規模アップデート(ブロードコアアップデート)が、3月、8月、10月、11月に実施されました。さらに 5月と 9月には「役立つコンテンツアップデート(HCU)」も行われるなど、更新頻度が大幅に増加する異例の事態となりました。
これらのアップデートでは、従来高評価を得ていた健全なサイトが順位を下げる一方で、一部の検索語ではスパム的なサイトが上位に表示されるケースも確認され、検索結果の品質低下が指摘されるようになります。
また、SERP(検索した際に表示される検索結果ページ)は、「他の人はこちらも質問」「関連検索」「お店やサービス」「強調スニペット」「YouTubeの動画カルーセル」などの要素が頻繁に表示されるようになりました。これらのリンクも、多くは有料広告が表示される仕組みになっています。

後の裁判資料(反トラスト訴訟)によって、Googleが検索結果の露出配分や広告表示を戦略的に調整していたことが明らかになっています。
検索で精度の低い結果が表示されると、ユーザーは目的の情報を得るために再検索を行うため、検索クエリが増加します。
結果として広告の露出機会が拡大し、有料広告がクリックされる可能性が高まります。
さらに、広告表示の増加によって競争率も上昇し、1クリックあたりの広告単価(CPC)が引き上げられる構造となり、ユーザーだけでなく広告主も損失を被る結果となっています。


広告優先構造への転換

Googleの創業者であるラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏が在籍していた 2019年度まで、Alphabetの株価が大きく伸びなかった要因の一つは、ユーザーエクスペリエンス(UX)を重視する企業ポリシーにありました。
2016年まで、1ページに表示できる AdSenseの広告は、バナー広告・リンクユニットともに 3箇所までという制限が設けられていました。この規制は 2016年 8月に撤廃されましたが、その後も過度な広告表示によって UXが損なわれると Googleが判断した場合は、広告の表示制限や無効化の措置が取られていました。
スポンサーサイトも、当時は SERPの上部に別枠として 3件のみが表示され、オーガニック検索結果には上位 10サイトが掲載されるなど、収益化よりも UXを優先した構成でした。

2023年以降、広告の増加は検索エンジンやSERPだけでなく、YouTubeにも及びます。
さらに、Googleが提供する広告サービス「AdSense」では、広告の自動表示を有効にすると、デフォルト設定でページの至るところに広告が挿入されるようになりました。
Googleはこの仕組みを、サイト運営者の収益を最大化するための「AIによる最適化」と説明しています。
こうした施策によって、Googleの広告収入は大幅に回復し、2023年度には収益指標と株価のいずれもが上昇傾向を示しました。

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2025年現在、スポンサーサイトの表記は残っていますが、オーガニック検索結果と混在しているため、どこまでが広告枠で、どこからが通常の検索結果なのか判別が難しくなっています。
さらに、検索ワードによっては、1ページ目がスポンサーサイトと SERP機能だけで占められるケースもあります。

かつて AdSenseの規制が厳しかった時期には、ユーザーの誤クリックを誘導するような広告配置は禁止されていましたが、現在の Googleは UXよりも収益化を優先し、有料広告へのクリックを促す構造へと変化しています。

検索体験の広告プラットフォーム化

収益化を優先する構造は、もはや後戻りできません。
株価を維持するためには現状維持ではなく、市場が予測する収益を上回る成果を出す必要があり、株価を上昇させるには予想を超える業績を示すことが求められます。
情報検索のための公共インフラとして機能していた Googleは、現在では広告配信ネットワークの一部として再構築され、検索結果は情報への導線ではなく、広告プラットフォームとして機能し始めています。

以前から Googleの個人情報収集は問題視されていますが、検索クエリ・クリック履歴・滞在時間などの行動データが、広告最適化アルゴリズムの学習素材として利用されており、ユーザーの検索行動自体が広告表示を最適化する AIモデルのトレーニングプロセスに組み込まれています。
つまり、Googleで検索するほど、AIはユーザーがクリックしやすい導線を学習し、スポンサーサイトや「他の人はこちらも質問」「ショッピングカルーセル」「動画スニペット」などの SERP機能を動的に最適化していきます。

より多くの広告を表示するためには、ユーザーが SERPから離脱するのを防ぐ必要があるため、関連性の低いサイトを上位表示し、ユーザーに再検索を促します。目的の情報が見つからない場合に、他の検索エンジンに切り替える利用者は少なく、ほとんどのユーザーが Google内で再検索を行います。
その結果、広告のクリック率と CPC(クリック単価)が上昇し、ユーザーは目的の情報にたどり着けず、広告主は実質的な価値を伴わないクリックに高い広告費を支払う構造が生じています。

AI概要と広告の構造

Googleは、SERPのトップに「AI概要(AI Overview)」を表示するようになりました。
従来の 10個の青いリンクの代わりに、ユーザーの検索クエリに対して、AIが回答するこの仕組みは、Googleがインターネットのポータル(入口)ではなくなったことを意味しています。

検索精度を意図的に低下させる手法は持続しません。Googleは、これまで築き上げてきた検索エンジンの信頼度を食い潰しながら収益を上げており、すでにパソコンでは Googleのシェアが低下し始めています。
長年にわたって共存してきた世界中のウェブサイトとの関係を一方的に切り、AI概要による新たな収益モデルへの移行を進めています。

AI概要は、検索結果の上位を広告で覆い尽くすという従来のモデルを、より高度に進化させた構造になっています。見た目には、ユーザーの検索クエリに対する回答を生成していますが、その生成過程と表示領域が広告モデルに統合され、収益化のサイクルに組み込まれています。

Google検索はすでに、「情報を探す場所」から「広告を最適に提示する装置」へと変わりました。
AI概要は単なる新機能ではなく、検索の主導権が人からアルゴリズムへの移行を示す象徴的な構造です。探索の自由を前提として築かれたWebの仕組みは、いまや収益と最適化を前提とする AI主導の検索構造へと再編されつつあります。

脱Googleの手引き - プライバシー重視の環境構築
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  • 2025-11-01:初版公開

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