本革と合皮

Genuine

最近は「レザー」という名のもとに、様々な「革もどき」が巷に氾濫している。
特に10代~20代前半の世代は、人造皮革を何の躊躇いもなく「レザー」と呼び、Amazonをはじめとするネットショップの商品も「レザー」という表記で販売されている。

また、日本のファストファッション大手ユニクロは「ネオレザー」なる商品を販売しており、他のカジュアルショップも「ニューレザー」など非常に紛らわしい名称を使用している。
まさに「羊頭を掲げて狗肉を売る」に等しいが、品質表示には「合成皮革」と表記されており、「◯◯レザー」というのはあくまで商品の名称。
一方で、本革や合皮などの素材を気にしない、見た目重視の風潮も、これらの表記が一般化している一因と思われるが、個人的には違和感を禁じ得ない。

本革 ~ Genuine Leather

革製品でよく見Genuineかけるこのマークには大抵 「Genuine Leather」という表記がある。ちなみに「ジェニュイン レザー」と読み、意味は「正真正銘の革」。つまり「本革」であることを示している。
デザインは皮を剥いだ状態がモチーフになっており、ある意味で革を使用する上での残虐性を表している。

革製品として一般的なのは牛革で、他に馬(コードバン)、豚(ピッグスキン)、鹿(ディアスキン)、羊(シープスキン)、山羊(ゴートスキン)、カンガルー、蛇、ダチョウ(オーストリッチ)、ワニなどがある。

通常、牛革は肉牛のものを使用しており、牛の年齢や環境によっても異なるが、特徴としてはキメが細かく、肉厚で耐久性に優れている。
カーフスキン(生後6ヶ月以内)やキップスキン(生後1年以内)など年齢と飼育環境によって呼称が異なり、皮革として多く使用されているのはステアハイド と呼ばれる生後2年以上経過した去勢された雄牛。また、国内で加工されている牛革は大半が輸入物で、自給率が100%なのは豚皮のみらしい。

鞣し(なめし)加工

皮(スキン)と革(レザー)。前者は生き物の原皮を意味し、後者は原皮を加工したものに用いられる。
皮の加工とは「鞣し」のことで、鞣しとは文字通り「革」を「柔」かくし、腐敗しないようにすることで、人類は原始時代から皮を革に変える技術を発達させてきた。

基本的に食肉加工される際に剥がされた皮(原皮)は腐敗を防ぐために塩漬けにされ、次の準備工程を経てなめし工程へ入る。

1.水漬け

原皮は「水塩漬けなどの防腐加工で失われた水分を補い、同時に表面の洗浄を行う。

2.フレッシング(裏打ち)

皮に付着している肉や脂肪を取り除く。

3.石灰漬け

皮の脂肪除去、脱毛処理の他、コラーゲン繊維をほぐし柔軟性を与える。

4.スプリッティング(分割)

銀面(表面)と床皮(肉面)の2つに分割する。

5.再石灰漬け

分割後、再び石灰に漬け、柔軟性を与える。

6.脱灰

塩化アンモニウムなどで皮に残っている石灰を取り除く。

7.酵解

銀面を滑らかにする酵素処理が行われる。

鞣し加工には大きく「タンニン鞣し」と「クロム鞣し」の2種類に分かれ、前者は植物に含まれるタンニンを使用した技術で、後者は塩基性硫酸クロム塩というクロム化合物を使用した技術になる。
タンニンは植物に含まれる化合物で、渋柿やお茶、紅茶などに多く含まれ、「渋み」を感じることでよく知られている。
タンパク質と強く結合する性質が有り、皮の主成分であるコラーゲン(タンパク質)を変質させることで、皮が腐敗せず、柔らかくなり、「革」になる。

タンニン鞣しはタンニン鞣し剤が入った大きな水槽(タンニン槽)に皮を浸して、皮の深部までタンニンを浸透させるが、1つのタンニン槽に漬け込むのではな く、タンニンの濃度が異なる「ロッカー槽」「レイヤー槽」「ホットピット槽」と3種類のタンニン槽に漬け込んで鞣すため、労力と時間が掛かる手法になる。

タンニンには紫外線を受けると色が濃くなるという性質があるため、タンニン鞣しの革は使い込むほどに茶褐色へと変化してい く。これは染色されていないヌメ革で顕著に現れ、革に浸透しているタンニンが多いほど色の変化が大きくなる。また、タンニンを抽出している植物によっても発色 が異なるようで、使用するタンニン鞣し剤はタンナーやメーカーの拘りが見えるところ。

一方、クロム鞣しは鞣し加工に革新をもたらした技術で、タンニン鞣しよりはるかに効率的、かつ低コストで運用できるため、世界で生産されている革の8割以上がクロム鞣しで加工されているらしい。

クロム鞣し剤は皮が酸性でなければ溶けないため、準備工程を終えた革はピックル(浸酸)という酸性の溶液に付ける工程を経て、 クロム鞣し剤を使用して鞣し、酸性になっている皮をアルカリによって中和、次に染色と革に油分を与える加脂が行われ、革に含まれる余分な水分を絞って乾燥 させる。
乾燥した革に適度な水分を与え、ステーキングという革を揉みほぐす作業が行われ、再び乾燥。後は仕上げ作業を行い、銀面に塗装して完了。

タンニン鞣しは黄~褐色の「革」らしい色になるが、クロム鞣しはブルーグレーのような色になるため染色が行われる。
革の断面を見ればタンニン鞣しかクロム鞣しか見分けが付くと言われるが、製品の大部分は革の断面が見えないよう上手く加工されているので、一見しただけでは分からない。
よくタンニン鞣し至上主義的な記事を見かけるが、タンニン鞣しがクロム鞣しに比べて非常に優れているのは天然素材だから環境にやさしいという点で、革の変色 や艶などは「特徴」に過ぎない。
世の中の人が全て革を使い込んでエイジングを楽しんでいるわけではなく、大多数は「軽く」「柔らかく」「丈夫」で「コスト パフォーマンスが良い」製品を望んでいると思われるので、その点においてはクロム鞣しは非常に合理的。

ヌメ革

原皮をタンニン鞣しで仕上げ、ほとんど加工していないものが「ヌメ革」。

leather003

ナチュラルレザーとも言われるもので、代表的なものが染色されていないベージュのもの。
もっとも革らしい革で、使い込むほどに色が変化していくので、「革を育てる」楽しみがある。
ヌメ革はタンニン鞣しの特性から素材そのものが丈夫で、樹脂を一切使用していないので経年劣化もなく、長く使い込むことができる反面、非常にデリケートで傷やシミがつきやすい。

エナメル ~ Patent Leather

ハイブランドの製品で合皮以外に多いのがパテントレザー、別名でエナメル革と呼ばれる素材。パテントとは特許のことで、エナメル革が特許を取得しているため、パテントレザーと呼ばれている。

leather002

エナメル革は文字通りエナメル樹脂でコーティングされた皮革のことで、使用されるエナメルはポリウレタン樹脂エナメル。
革にポリウレタン樹脂を幾重にも塗布するので、ピカピカになるだけでなく、革についている傷なども隠れてしまう。しかも樹脂でコーティングされているので、水にも汚れにも強い。
加工するコス トはかかるが、少々ならムラや傷のある革が使えるのは大きなメリット。

エナメルに似た革にガラス革があるが、こちらはもっと直接的で、本来は傷が多く製品に使えない皮を鞣した後、傷のある表面(銀面)をヤスリで削り、ガラス板 に張り付けてから樹脂でコーティングするもので、そのままでは製品として使用できない皮も利用できる非常にエコな加工。
エナメル同様に表面が樹脂でコー ティングされるのでツヤツヤになるが、ガラスという名称は製品にツヤがあるからではなく、工程途中にがラス板を使用していることに由来する。

樹脂でコーティングされているので、合皮と同じくエナメルもガラス革も水に強く、汚れにくいという特性がある一方で、樹脂なので合皮と同じく経年劣化は避けられず、長期間の保管や使用状況によっては、表面がベタベタになったり、白く曇ったようになってしまう。




 人工皮革・合成皮革 ~ Fake Leather

人工皮革と合成皮革はいずれも合成樹脂を使用しているが、人工皮革は化学繊維に合成樹脂を浸透させたもので、合成皮革は天然素材に合成樹脂を塗布したもので、微妙に製法が異なる。ただ、一般的に人工皮革や合成皮革という呼称を使用することは稀で、少し前までは「合皮」という総称が使用されていたが、最近では めっきり聞かなくなった。

「合皮」と聞くと個人的に「偽物」「安物」「ビニール」というイメージがあり、おそらく合皮という言葉を耳にしていた世代は少なからず同様のイメージを持っていると思われる。
製造・販売側はこの合皮に付きまとう負のイメージを払拭すべく、フェイクレザーやPuレザーなど「◯◯レザー」という表現を使用し、その究極のところが前述のネオレザーやらニューレザーという呼称になる。

勝手に負のイメージを持っているが、人造皮革の品質は決して悪いものではなく、見た目も本革に似せてよくできている。しかも、本革に比べ価格は10分の1程度で、価格だけでなく製品の重量も非常に軽い。更に本革製品のように雨に濡れてもシミにもならず、メンテナンスの必要もない。
「軽く」「柔らかく」「丈夫」で「コストパフォーマンスが良い」という点に関しては、クロム鞣しの本革製品よりも、人造皮革の方が優っている。

ただし、人造皮革に使用されている樹脂は経年劣化するため、早ければ3年程度で表面にヒビ割れが生じ、表面の樹脂が剥離を起こす
劣化の速度は樹脂の成分などによって異なるが、樹脂の多くは「湿気」と「高温」に弱く、これらの悪条件下では使用していなくても劣化する。

ハイブランドの製品でも内張りには合皮が使用されている事が多く、箱に入れて大事に押入れで保管しておいたのに、久しぶりに 取り出したら内側がベタベタという事例が多いのは、合皮の経年劣化が原因。
使用していれば湿気が籠もることはないので、ベタベタになることはないが、合皮の寿命で表面がボロボロになってくる。樹脂にとって日本の高温多湿は最悪の環境なので、合皮といえども長期間使用しない場合は定期的な陰干しが必要だったりする。

pu-coating

上図は2~3年使用していなかったポリエステル素材のガーメントバッグ。
ファスナー部についている補強用のテープがPU(ポリウレタン)コーティングされていたと思われ、劣化により砂のような茶色の粉状の物質が付着している。触ると若干ベトつく感じで、払い落とすことはできない。
PUコーティングされた補強用のテープや防水テープは見えないところ、見えづらいところで使用されているので、劣化したことが分かりづらく、バッグの中に入れたものが砂まみれのような状態になって気付くという最悪の事態に陥りやすい。

劣化したコーティングは再生できないので、継続して使用するには劣化したコーティングを除去するしか無い。ただ、コーティングの劣化は均等に進行するわけではないので、完全に除去するのは至難の業。
内容物をビニールなどで保護するなどの手段を講じないと、茶色の粉に悩まされるので、製品の寿命だと割り切ったほうが賢明かも。
そうならないためにも、カバンは定期的に使用するか、陰干しすることを推奨。

 革の寿命

合皮には樹脂の経年劣化による寿命があるのだが、高級な革製品では「一生もの」というフレーズをよく聞く。
すでに人生の折り返し地点を通過した身なので、いま所有している革製品はもしかしたら黄泉へ持っていけるかもしれないが、当然のごとく革製品にも寿命はある。

「革は生き物」と言われるように、大事に育ててやれば長生きするし、放置すれば短命に終わってしまう。また、どれほど大事にしていても、使用していれば劣化は避けられず、いずれは道具としての役目を終えることになる。
では、使わなければ長持ちするのかといえば、一概にはそういう訳でもない。
保管の状態が悪ければカビが発生するため、早い段階で適切な処置をしなければ残念な感じになってしまう。

「どのくらいもつの?」と訊く人をよく見かけるが、革の良し悪し、使用頻度、使い方、適切なケアなど、製品の寿命は複数の要素が絡むので、一概に答えられるものではない。
しかも革製品の場合は劣化とエイジングが表裏一体で、ボロボロでもそれなりに様になったりするため、寿命の判断には個人差がでてくる。

結局のところ製品の寿命は使う人次第。
よく靴や鞄を見れば人が分かるとか、ホテルなどでは真っ先に靴がチェックされるとか、なぜか革製品には使用者の内面を表すような話が多いのだが、合皮やナイロンなどの化繊製品は「劣化」していくのに対し、革製品は経過した時間を刻みこみながら「老化」していくので、使用者の「現在」が見て取れる、ということなのだろう。

 


 革製品のケア用品いろいろ

Genuine

革製品のケア用品いろいろ

革製品のお手入れグッズは基本的にシューケア用品になる。 シューケア製品の国内メーカーではコロンブスが有名。他にサンエッチという大正年間に創業している老舗の靴クリームメーカーもあったが、2014年に自己破産している。 海外 … 続きを読む

革の基礎知識

Genuine

皮革ケアの基礎知識

革靴の手入れは「化粧」に例えられることが多い。 「洗顔」→「スキンケア」→「メイク」という流れは、確かに皮革製品の手入れと同じ。 皮革製品はもともと「肌」なので、その手入れ方法がスキンケアと似ているのは当然で、間違った手 … 続きを読む

Genuine

本革と合皮

最近は「レザー」という名のもとに、様々な「革もどき」が巷に氾濫している。 特に10代~20代前半の世代は、人造皮革を何の躊躇いもなく「レザー」と呼び、Amazonをはじめとするネットショップの商品も「レザー」という表記で … 続きを読む

革製品のお手入れ方法

Genuine

ヌメ革のエイジングと手入れ

原皮をタンニン鞣しで仕上げ、ほとんど加工していない、ナチュラルレザーとも呼ばれるヌメ革。そのデリケートさを含め、エイジングを楽しめる素材として人気だったりする。 新品のヌメ革は色白の別嬪さんで非常に繊細。 皮膚には皮脂膜 … 続きを読む

Genuine

革靴の手入れ

革製品の中でも靴の手入れに関してはマニアが多いのか、様々な持論が展開されており、意外と面倒くさい。 好きだからこそ熱くなれるのかもしれないが、基本さえ抑えておけば、どこのメーカーのケア用品を使おうが、手順を変えようが、大 … 続きを読む

Genuine

レザージャケットのオイル入れ

レザージャケットも本革なので当然ながら手入れが必要。 革ジャンもブラッシングと乾拭きが基本で、オイル入れは革のツヤがなくなったり、表面が乾燥し始めてからでも遅くはない。 ケア用品 ラナパーが他のオールマイティタイプの製品 … 続きを読む